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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)1630号 判決 1981年8月03日

原告 崔慶姫

<ほか一〇名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 松崎勝一

同訴訟復代理人弁護士 佐藤公輝

被告 東洋開発株式会社

右代表者代表取締役 藤田利勝

右訴訟代理人弁護士 遠藤順子

参加人 有限会社新洋建設

右代表者取締役 井口輝一

同 小暮ヨシ子

右参加人ら訴訟代理人弁護士 鈴木武志

同訴訟復代理人弁護士 山下俊之

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告らと被告との間において、別紙物件目録(二)の建物の一階部分につき、原告らが別紙持分目録(三)のとおりの共有持分権を有することを確認する。

2  被告は、別紙物件目録(三)の建物について、東京法務局中野出張所昭和五一年七月三〇日受付第一六一二九号の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

3  被告は、別紙物件目録(一)の土地について、別紙登記目録(二)の各受付番号の同目録(三)の各持分による各所有権移転登記をそれぞれ別紙持分目録(三)の各持分による各所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

4  被告は、各原告に対し、各金二〇万円(但し、原告中嶋三千世に対しては、金一三万三〇〇〇円、同中嶋須美子に対しては、金六万六〇〇〇円)及びこれに対する昭和五一年三月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被告及び参加人有限会社新洋建設は、別紙物件目録(三)の建物について東京法務局中野出張所昭和五三年一一月一八日受付第二六七五三号の所有権移転登記及び同目録(一)の土地について同出張所同日受付第二六七五二号の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

6  参加人小暮ヨシ子は、前項の各抹消登記手続を承諾せよ。

7  訴訟費用は被告及び参加人らの負担とする。

8  4項につき、仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、それぞれ、昭和四七年二月二一日までに、被告から、被告が昭和四六年一〇月ころ建築した別紙物件目録(二)の建物(以下、「本件建物」という。)の各専有部分とその敷地である同目録(一)の土地(以下、「本件土地」という。)の共有持分権を買受けた。原告らが買受けた右各専有部分の床面積は、別紙持分目録(二)のとおりである。

原告らと被告間の右売買契約において、原告らが取得する本件土地の共有持分は、本件建物の全専有部分の床面積の合計に対する各原告の買受けた右専有部分の床面積の割合によると定められていた。

2  原告らが買受けた各専有部分の床面積が右のとおりである以上、原告らの本件土地及び本件建物の共用部分に対する各共有持分は、別紙持分目録(三)のとおりである。

すなわち、本件土地の登記簿上は、原告らの各共有持分の分母が、「一三七九四四」となっているが、これは被告が本件建物の専有部分の全床面積を一三七九・四四平方メートルとして登記したからであり、3に述べるとおり、本件建物の一階部分のうち、被告が専有部分と主張する二一七・〇一平方メートルは専有部分ではないから、本件建物の専有部分の全床面積は一三七九・四四平方メートルから右二一七・〇一平方メートルを引いた一一六二・四三平方メートルであり、原告らの本件土地の各共有持分の分母は、「一一六二四三」となる。

3(一)  被告は、本件建物を昭和四六年一〇月ころ完成し、同年一一月初めころに分譲を開始し、分譲開始後しばらくしてから、本件建物の一階部分のうち、玄関、ロビー、管理人室、エレベーター室等を除いた部分二一七・〇一平方メートルを被告所有の専有部分として、有料駐車場として使用し、その後別紙物件目録(三)の建物(以下、「本件車庫」という。)として、昭和五一年七月三〇日、被告所有名義に保存登記をした。

(二) 本件建物の分譲開始時における右駐車場部分の状況は、以下に述べるとおりであった。

(1) 右駐車場は、本件建物の一階部分の玄関ホールの両横及び背後にあり、玄関ホールを取り囲むような形になっていて、その正面(北側)、背面(南側)及び建物に向って左側面(東側)には隔壁がなく、シャッターによる間仕切りもなかった。また、右駐車場はその両側面及び背面の八本の柱と玄関ホールの四隅の四本の柱に支えられているが、これら一二本の柱は、いずれも、本件建物全体を支える根幹的な柱であり、右駐車場のために特に設置されたものではなく、右駐車場の床は、土がむき出しであり、その後も土の上にコンクリートを塗っただけのもので、土地と完全に密着していた。

(2) 右駐車場の東側の隅には、本件建物の共用部分である電気室が設置され、電気室のドアは右駐車場の側に開くようになっているので、電気室に入るには必ず右駐車場を通らなければならなかった。また、右駐車場の天井にそって、空中に水道管等が張りめぐらされていて、これらの水道管等と場所的に区分されておらず、右駐車場には、独自の電気メーターもなく、水道設備も備わっていなかった。さらに、右駐車場は、非常時の避難通路とされていた。

(3) 右駐車場の東側面には、その後ブロックが積み上げられ、塀になっているが、右ブロック塀は天井には達しておらず、吹きぬけの状態になっている。これは、本件建物の所在地は商業地域として容積率が四〇〇パーセント以下に制限されていたところ、右ブロック塀を天井に達するまで積み上げ隔壁を設けると右の制限に違反することになるからである。

右建築基準法上の制限のために、被告は本件建物の建築確認申請の際、右駐車場部分を「ピロティー」として申請したのであり、現実に完成した当時の構造も、「ピロティー」であった。

(三) 以上のとおり、右駐車場部分は、本件建物の分譲開始当時、本件土地の一部であるか、仮にそうでないとしても、本件車庫は構造上の独立性及び利用上の独立性を欠いていたので、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)にいう専有部分に該当せず、法第三条一項にいう「構造上区分所有者全員の共用に供されるべき建物の部分」、いわゆる法定共用部分として確定したのであり、いずれにしても、原告らを含む本件建物の区分所有権者の共有に属する。

従って、被告がした本件車庫についての前記所有権保存登記は無効である。

4  被告は、前記のとおり、右駐車場部分もしくは本件車庫を有料駐車場として使用し、昭和四八年一月一日から昭和五〇年一二月末日までの間に少くとも一か月三〇万円、合計一〇八〇万円の収益をあげた。

被告の右収益は、原告らの共有持分権を侵害することにより得られたもので、不当利得にあたるところ、原告らの損失は各原告につき二〇万円(但し、原告中嶋三千世は一三万三〇〇〇円、同中嶋須美子は六万六〇〇〇円)を下回ることはない。

5  参加人有限会社新洋建設は、本件車庫について、東京法務局中野出張所昭和五三年一一月一八日受付第二六七五三号の所有権移転登記を有しており、本件土地について、同出張所同日受付第二六七五二号の東洋開発株式会社持分一部移転登記を有している。

6  参加人小暮ヨシ子は、参加人有限会社新洋建設から、本件車庫及び本件土地の持分について抵当権の設定を受け、右両者について、いずれも東京法務局中野出張所昭和五三年一二月一日受付第二七八〇〇号の各抵当権設定登記を有し、また、本件車庫について、同出張所同日受付第二七八〇一号の停止条件付賃借権の仮登記を有している。

7  よって、原告らは、本件建物の一階部分の共有持分権者として、所有権に基づき、原告らが本件建物の一階部分につき別紙持分目録(三)のとおりの共有持分権を有することの確認を求めるとともに、被告が本件車庫についてなした東京法務局中野出張所昭和五一年七月三〇日受付第一六一二九号の所有権保存登記の抹消登記手続をなすこと及び本件土地について、別紙登記目録(二)の各受付番号の目録(三)の各持分による各所有権移転登記をそれぞれ別紙持分目録(三)の各持分による各所有権移転登記に更正登記手続をなすことを求め、さらに、不当利得返還請求権に基づき、各二〇万円(但し、原告中嶋三千世は一三万三〇〇〇円、同中嶋須美子は六万六〇〇〇円)及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五一年三月一八日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、本件車庫及び本件土地の共有持分権者として、所有権に基づき、参加人有限会社新洋建設が本件車庫について有する東京法務局中野出張所昭和五三年一一月一八日受付第二六七五三号の所有権移転登記及び本件土地についてなした同出張所同日受付第二六七五二号の東洋開発株式会社持分一部移転登記の各抹消登記手続をすることを求め、参加人小暮ヨシ子に対し、同参加人が右各抹消登記手続につき承諾することを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実は否認する。

本件土地についての原告らの持分の分母が、「一三七九四四」として登記されているのは、別表のとおりの計算によるもので、本件建物の全専有部分の床面積の合計一三七九・四四平方メートルに対応するものである。

(三) 同3(一)の事実は認める。

同(二)につき、被告は、本件建物を建築する当初から、本件車庫部分を被告所有の駐車場として使用する予定でいたものであり、施行図作成の段階では、刺筋を施し、水道、ガス、電気の配管、配線をしたものであり、原告らとの売買契約の際、(二)の建物の全専有部分の床面積の中に、本件車庫部分の床面積二一七・〇一平方メートルも含まれていた。その後、床面にコンクリートを打設したのを手初めに逐次駐車場として整備し、現在では四周をコンクリート壁ないしはシャッターで囲まれた完全な建物構造となっている。

登記簿上も、本件車庫は、被告所有の車庫として登記され、固定資産税法上も、建物として取り扱われている。

同(三)の原告主張は争う。

(四) 同4の事実中、有料駐車場として使用した点は認めるが、その余の事実は否認する。

2  参加人ら

(一) 請求原因1ないし4に対する認否は、被告の認否と同旨

(二) 同5、6の事実は認める。

三  参加人らの抗弁

1  参加人有限会社新洋建設は、昭和五三年一〇月四日、被告から被告所有の本件車庫及びその敷地である本件土地の持分一三七九四四分の二二四五九を代金八〇〇万円で買受け、請求の原因5の各登記をした。

2  参加人小暮ヨシ子は、参加人有限会社新洋建設に対し、昭和五三年一一月二九日、六〇〇万円を弁済期昭和五四年二月二八日、利息年一割五分、利息支払期は毎月末日、遅延損害金の割合年三割の約で貸渡し、右貸付当日、参加人有限会社新洋建設との間で、本件車庫及び右土地持分について、右貸付金債権を担保するため、抵当権設定契約を締結し、本件車庫につき停止条件付賃貸借契約を締結し、請求の原因6の各登記をした。

四  抗弁に対する原告の認否

抗弁事実は不知

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実と《証拠省略》を総合すれば、以下の事実が認められる(一部当事者間に争いのない事実を含む。)。

1  被告は、昭和四五年、本件土地上に本件建物を建築することを計画し(当初、二、三階は事務所、四階以上は分譲マンションとする予定であった。)、同年一二月ごろ、本件建物につき建築基準法第六条一項による確認(以下「建築確認」という。)申請をなし、右建築確認を得て建築に着手した。右建築確認の際、本件車庫部分は「ピロティー」として申請された。

2  被告は、昭和四六年一〇月ごろ、本件建物の建築が約八〇パーセント完成したので、同年一一月ころから、その分譲を開始した。その当時の本件建物の一階部分は、次のような状況であった。

(一)  本件建物の一階部分には、北側の道路に面した中央部に間口約五・二三メートル、奥行約五・三メートルの玄関ホールがあり、玄関ホールと他の部分はホールのガラス壁で区分されている。玄関ホール内はホールに入ってすぐ右側に管理事務所、左奥に階段、右奥にエレベーター室が設置されていた。

(二)  右玄関ホールを除いた部分は、玄関ホールを取り囲むような空間になっており、一階部分の北側の玄関ホールを除いた両側の部分と東側には隔壁がなく、南側は隣接地との境界にブロック塀が、西側にコンクリートの隔壁が各存在していた。また、右空間部分には、合計一二本の柱が存在していたが、これらの柱は、本件建物全体を支えるものであった。

(三)  右空間部分の天井には、空中に上・下水道管、ガス管などが張りめぐらされており、床の部分は土がむきだしの状態であった。

(四)  右空間部分には、水道、ガス、電気の配管、配線の設備がなされており、右空間部分の東側は、ブロックを積むため柱と柱の間に刺筋されていた。

(五)  一階部分の東南隅には、共用部分である東京電力の電気室があったが、右電気室への出入りは本件建物の東側にある道路から可能であった。

(六)  被告は、右空間部分を資材置場として使用していた。

3  被告は、本件建物の分譲の際、購入希望者に対して、玄関ホールを除いた一階部分の用途について、明確な説明をしなかったが、本件建物を建築する計画当初から、右部分を店舗、貸事務所ないしは車庫として、区分所有の対象となる専有部分とする予定であり、分譲の際配付したパンフレットには、一階部分が玄関ホール及び店舗として使用されている完成予想図が印刷されていた。

4  ところで、被告は、1のとおり、本件車庫部分を「ピロティー」として本件建物の建築確認申請したのであるが、これは、昭和四五年当時本件土地の存する地域が建築基準法上の第四種容積地区にあたり右地区内での建築物の容積率は四〇〇パーセント以下に制限されていたので、区分建物として申請すれば、確認が下りないためであって、被告は、後日容積率が緩和されるのを待って、設計変更の手続を取り、一階部分を店舗、貸事務所ないしは車庫として完成させる予定であった。その時のために、2、(四)のとおりの設備を施していた。

5  被告は、昭和四六年の終りごろから約一年間、本件建物の一階部分の前記空間部分を前記2、(六)のとおり使用していたが、昭和四七年中ごろに右部分の床に厚さ一二センチメートルのコンクリートを張り、遅くとも昭和四八年一月一日以降右部分を有料駐車場(一〇台位の車を駐車できた。)として使用するようになった。

また、被告は、そのころ、本件建物の南側二階部分に屋根を作りこれを床にして避難通路を開設し、従前右駐車場となった部分が避難通路であった状態を改めた。

昭和五〇年ころ、本件建物の存する地域が建築基準法上の五種容積地区となり、容積率が四八〇パーセントになったため、被告は、同年末ころ、一階部分の東側にブロックを積み上げ、その上部を鉄格子として、当該部分に隔壁を築き、これと本件建物の建設当初から存した西側のコンクリート隔壁と南側のブロック塀によって三方を仕切り、北側部分を入口とする車庫を完成させた。

その後、昭和五五年六月ころまでには、右入口部分にはシャッターが設置された。

6  被告は、昭和四六年一〇月二七日、本件建物の専有部分を分譲するに当たり、本件建物につき表示に関する登記をした。右登記上、本件建物の床面積は、一階二四〇・七一、二・三階各二四七・三四、四・五階各二二〇・五〇、六階一九二・七八、七階一四五・八〇、八階九〇・一八各平方メートルと表示されている。右分譲に当たっては、本件建物の敷地である本件土地の共有持分が各専有部分とともに売渡されたのであるが、その共有持分の割合は、一三七九四四を分母とし、各専有部分の床面積を一〇〇倍した数を分子とする分数で表わされているが、右分母である一三七九四四は、被告が本件建物の専有部分の床面積を一階二一七・〇一、二階二一〇・三六、三階二〇九・四六、四・五階各一九三・六二、六階一五八・二八、七階一一六・六六、八階八〇・四三各平方メートル(別表の専有面積の欄参照)としたその合計面積に対応するものであって、これによれば、本件建物の床面積の合計一六二一・一五平方メートルから右専有部分の床面積の合計一三七九・四四平方メートルを差引いた二四一・七一平方メートルが、本件建物の法定共用部分として予定されていたことが明らかである。

なお、本件建物の分譲の際被告と各専有部分の買主との間で作成された分譲住宅(区分)売買契約書の売買物件の表示の欄には、建物総面積として一六三六・四七平方メートル、土地持分の割合を示す分数は分母として一四二一・八七平方メートル、分子として各専有部分の床面積となっており、右登記簿上の数値と異なるが、これは右契約書に注記されているとおり、専有面積が壁芯実測で示されているため内面実測による登記面積と差異が生じるためであって、右の一四二一・八七平方メートルは前記の一三七九・四四平方メートルに対応し、全専有部分の床面積の合計を示すものであることが明らかで、右契約書の記載によると法定共用部分の面積は二一四・六〇平方メートルと計算されることになる。

被告は、本件建物の完成の当初から、右一階部分のうち二一七・〇一平方メートルを被告所有の建物部分としていたが、昭和五〇年末ころ本件車庫が完成したので、昭和五一年一月七日、本件建物の表示に関する登記につき一階の床面積を二七五・四二平方メートルと変更する旨の登記をし、同時に、本件車庫につきその床面積を二二〇・一一平方メートルとする専有部分の建物の表示に関する登記をし、同年七月三〇日、本件車庫につき被告所有名義の所有権保存登記をした。

7  被告は、本件建物の完成後、本件建物につき課税の申告をしたが、課税台帳上、本件車庫部分は、当初実測面積一九八・八四平方メートルの、登記後は床面積二二〇・一一平方メートルの被告所有の専有部分として課税されていた。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

三  以上の事実によると、被告が本件建物の専有部分の分譲を開始した際、各専有部分の所有利用にとって不可欠な施設は、一階部分においては、管理事務所、階段、エレベーター室が設置されている玄関ホールと本件建物の電気設備の維持に必要な電気室とであって、本件車庫部分は、右玄関ホール及び電気室と明確に区分されていて、避難通路として使用される場合を除いては、本件建物の専有部分の所有、利用上不可欠な空間ではなかったこと、このことは、一階部分の右構造上からみて、また、被告が当時本件車庫部分を資材置場として使用していたことや分譲の際被告が配布したパンフレットに本件車庫部分が店舗として利用されている本件建物の完成予想図が印刷されていたことからして、原告を含む専有部分の買主に認識されていたと認められること、被告は、右分譲開始当時から、本件車庫部分が被告に専属する建物部分であると考えており、これを本件建物の区分所有者が無償で利用できる共用部分とする意図はまったくなく、従って、各専有部分の分譲価格の決定に当たっても、本件車庫部分の利用の対価を分譲価格に反映させたものとは認められず、一方、原告を含む本件建物の専有部分の買主も、買受当時、本件車庫部分の利用ができることを前提に各専有部分を買受けたものではなかったことが認められる。

これらの事実によると、原告らと被告の間で締結された本件建物の各専有部分及びその敷地である本件土地の共有持分の売買契約において、本件車庫部分は売買の目的とされてはいなかったといわなければならない。

四  ところで、構造上利用上の独立性を有する部分を複数備える一棟の建物の所有者が、その独立性を有する部分を逐時第三者に売却する場合において、売買契約上売買の目的物とされた専有部分とその専有部分の利用のために必要な共用部分以外の建物の部分の所有権が、売主に留保されていることはいうまでもない。このことは、売主に所有権が留保されている建物の部分がすでに構造上、利用上の独立性を有する部分として完成している場合と将来このような独立性を取得し得る場合であるとによって異なることはない。後者については、それが構造上、利用上の独立性を取得すれば、そのときにこれを区分所有権の対象とすることができることはいうまでもない。

これを本件車庫についていえば、前記二、三の事実によれば、本件車庫部分は当初被告にその所有権が留保された建物の部分であったところ、被告が昭和五〇年末ころ車庫を完成させたときに構造上利用上の独立性を有する建物の部分となり、被告がこれにつき専有部分としての建物の表示に関する登記をしたときにその区分所有権は被告に帰属したものということができる。これに反する原告らの主張は採用できない。

五  以上のとおりであるから、本件建物の専有部分の分譲が開始された当時に本件車庫部分につき原告らが共有持分権を取得したことを前提とする原告らの被告及び各参加人に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

よって、原告らの本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 関野杜滋子 野尻純夫)

<以下省略>

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